これが私の生島作品との出会い、ひいてはハードボイルド小説との邂逅でした。それまで私はハードボイルド小説なるものをほとんど読んだことはありませんでした。今までもチャンドラーの「例のセリフ(強くなければ．．．ってやつですね)」のシ−ンを読みたくて手を出したことはありましたが、どうも洋モノはダメなせいか(翻訳のせいでしょうかねえ)なじめないままでした。しかし、この「上海無宿」を読んで、「ハードボイルド小説」という新たなドアが開かれた感じがします。
生島さんの作品の登場人物たちは実にかっこいい。どういうふうにかっこいいかということを私なりに考えてみたところ、一言で言って「誰の言いなりにもならずに自分のルールで生きている」ことだと思います。他人の決めたルールではなくて自分のルールを守る。一見楽なようで、実は非常につらい生き方です。なぜなら、他人の決めたルールなら、それに対して文句を言うことも逆らうこともできます。ルールを守れなくても、「政治家が悪いからだ」などというふうに他人のせいにできます。しかし自分で決めたルールに対してはそんな相手はいません。かといってコロコロとルールすなわち生き方を変えてゆくのはどうでしょうか。確かにラクな生き方でしょうが、そんな生き方は自分自身が納得しません。第一かっこよくありません。
少し話を戻して、生島さんの作品の登場人物(特に主人公)たちには、強固な自分のルールがあるように思います。それがもとで苦境に追いやられても、決して自分のルールを曲げない強い信念の人ばかりです。こういう「ハードボイルド的」な生き方に私はシビれます。
ところで、この生島さんは、どうやら「日本のハードボールド小説」を確立したひとりなのだそうです。もし生島さんやほかの人たちがいなかったら、日本にはこのハードボイルドの世界が展開することはなかったのかもしれません。
その功績の割に、いま本屋などで作品をあまり見かけません。さすがに「追いつめる」や「黄土の奔流」などのメジャーな作品はけっこう目にするのですが、ちょっとマイナーなものになるとどこに行っても見あたりません。調べてみたところ、古いものはすでに絶版になっているようです。さらに、作品がいろいろな文庫に納められているため、探して回るのが大変です。権利その他の問題で面倒なのでしょうが、どこかの文庫でいっぺんに出してくれないものでしょうか。
